「あなたの夢は?」
「唐突な質問だね。」
「そう?」
「まあ、いいや。うんとね、幸せに暮していけること。」
「しあわせ?」
「そう・・・。人それぞれ幸せの形って違うと思う・・・。
だから説明は難しいんだけど
しあわせだなあ
といつも思えるような暮らしをしていたいんだ。」
「そうなんだ・・・。もうひとついい?」
「なんでもどうぞ。」
「人生が変わるような人物や出来事にあったことは?」
「・・・う〜ん、・・・まだないなぁ。」
「ありがと。」
「君の夢は?」
「私の夢は・・。」

またこの夢か・・・。
最近忘れていたのに・・・。
さてそろそろ行くか。
でも、あの頃に戻れればいいのに・・・。


今日もいつもと同じ予備校通い
まったく変わらない日々。
今年は心機一転、新しい生活を始めるために
予備校を変えた。
それでも自分の気持ちが変わらない限り
いつもと一緒に変わりはなかった・・・。

あいつはこんな自分をあざ笑うかのように
こんな気持ちをいとも簡単に吹き飛ばしてくれた。
「すいません。・・・ここ、あいてますか?」
「はい、すいません。いまどけますね。」
荷物を手早くどかし、床に鞄をおいた。
「どうぞ。」
「ありがとう・・・ございます。」
一日中、お隣どうしだった。
この予備校は、席が決められていない。
また、心理的になのか皆、同じ席に座りたがるのである。
それと教室変更がほとんどないため、こういったことがよくある。
なのでこの子はいつも俺の隣に座るようになった。
昼は二人とも弁当だった。
だからほんとに、ほとんど一緒だった。
しかしこんなことは予備校では、よくあることで
仲がよくなる理由にはならない
だが、こんな状況を打開するかのように
話しかけてくれたのは、あいつからだった。
それも思っても見なかったことを聞いてきた。
「あなたの夢は?」
「え?・・・唐突な質問だね。」
「そう?」
「まあ、いいや。うんとね、幸せに暮していけること。」
「しあわせ?」
「そう・・・。人それぞれ幸せの形って違うと思う・・・。
だから説明は難しいんだけど
しあわせだなあ
といつも思えるような暮らしをしていたいんだ。」
「そうなんだ・・・。もうひとついい?」
「なんでもどうぞ。」
「人生が変わるような人物や出来事にあったことは?」
「・・・う〜ん、・・・まだないなぁ。」
「ありがと。」
「君の夢は?」
「私の夢は・・。」
あいつはここで詰まってしまった。

それから先もずっと、隣どうしだった。
なんかうれしかった。
去年まであんなにつらかった予備校への登校も
今ではこんな楽しいことはない
そう思っていた。

夏休みも一緒に勉強した。
あいつの家に行ったこともあった。
あいつは一人暮らしだった。
「ひとりなの?」
「そう・・・だよ。」
「ふぅ〜ん。たいへんだね、それじゃ。」
夜まで一緒に勉強して、駅前まで一緒に行って
食事してわかれる。
というのが定番になっていった。
夏休みも終わり、だんだん皆が本気になっていった。
おれたちもそうだった・・・。
10月頃、もう1回聞いてみた。
「君の夢は?」
「私の夢は・・今みたいな生活が続けばいい。
ひとりはいや。」
「一人じゃないよ。・・・おれがいるじゃないか。」
この日、初めて俺達は一線を越えた。

本当に今みたいな生活がいつまでも続いてほしかった。
その年の受験は二人とも失敗した。
しかしもう1年だけ頑張ってみることにした。
6月くらいになってからのことだった。
同じ予備校のやつが想像もできない事を言ってきた。
「な・・・、なにいってんだよ。お前。」
「しらなかったの?本当に?」
「・・・あいつが?・・・ソープ嬢・・・。」
「ああ、どうやら本当みたいだよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
言葉が出なかった。
去年やっていたドラマの主人公と同じ立場になってしまった。
相手を傷つけないために、俺はある決断をした。
・・・絶対、悟られないようにしなくては・・・。
しかし、相手の勘はするどかった。
「どうしたの?今日は?」
「え?・・・つかれてるのかな?・・・おれ。」
「そうみたいね。」
「ありがとね、気にしてくれて。」
「もう、そんな事気にするような中じゃないでしょ。」
「はは・・・そうだね。」
このやり取り以来、全くいつものように戻った。
しかし一週間後、彼女の態度が急に変わった。
「・・・。」
「つかれた?今度は君が?」
「・・・ええ・・・。そうかもしれないわ。」
「早く寝た方がいいよ。そういうときはさ。」
「そうね。そうしよ。」

次の日、あいつは予備校に来なかった。
あいつの友達とか言うやつが昼休みの時、現れた。
「急いできてください。」
「な・・・ちょっとまって・・・わかったから・・・。」
行った先に彼女は寝ていた。
睡眠薬を飲みすぎたらしい。
もう・・・二度と起き上がることはなくなったのである。
友達という人が色んな事を教えてくれた。
「彼女の仕事は知ってる?」
「ああ・・・。」
「彼女は実家の借金を返すために、一生懸命働いてた。
がんばってたんだけど・・・結局無理であの仕事を選んだのね。
で、借金はアッというまになくなったんだけど・・・
彼女の父親がその事実を知って悲しんだの・・・。
彼女は家に帰れなくなった。
それで普通の仕事もやめてしまった・・・。
でも手元にお金が結構残っていたらしいから
一人にならないようなところへ、出るようになったの。
電車の中、図書館、映画館、・・・でもね
皆の話を聞けば聞くほど一人なんだ っていうことを
実感するようになっていった。
それで友達や仲間を作れるようなところを探した。
それが学校だったのね。
でも受かるためには勉強しなくてはいけなかった。
受験って大変なんでしょ。
予備校を決めて通い出してから彼女、見違えるように変わっていったわ。
あなたのおかげだったのね。」
「いや・・・。救われたのは俺の方だったから・・・。」
「それと・・・あなた知ってる?このこと・・・。」
それを聞いて愕然とした。
「に・・・日本人じゃ・・・な・・・い?」
「そうよ・・・彼女・・・日本人じゃないわ。」
「はは・・・。」
涙が止まらなかった。
「ばかだな。おれって。」
「彼女・・・言ってたわ。よく・・・
『一人にはさせない・・・この言葉が
私を何回も救ってくれた・・・
彼は絶対、嘘つかないの・・・
一人じゃない・・・私は一人じゃなくなったわ。』
とね。
こんな人がいたのに彼女、なんで死んだのかしら・・・。」
「何にも知らなかったんだな・・・ 俺って・・・。
日本人じゃなかったことも・・・
彼女が一人でこんなに悩んでいたことも・・・
全く気がつかなかったなんて・・・
なんて馬鹿なんだろう。俺って。」
街の中をふらふら歩いた。
これから先、彼女がいなくておれはどうすればいい?
なんだ。簡単じゃないか・・・。
おれも死ねばいいんだ。
そうすればすぐ会える。
それから死に方をいろいろ考えた。
親に困らせずに、自殺だとわからないような方法を・・・。

そんなものなかった。

それから三年後、あいつの墓参りに行った。
あいつが死んでから初めてのことだった。
「今年は来たのね。」
「ああ、君も来てたんだ。」
「うん、 それじゃね。」
おれはお墓に向かって話しかけた。
「聞こえるか。おれ、あれから友達作るの恐くてさ
いまだに大学入っても友達出来ないんだ。
ほんとに恐いんだ・・・。」
「何いってんの? いまさら・・・。」
夢にまで出てきたあいつが目の前にいた。
でも不思議と驚かなかった。
「え?・・・なんだ。いたのか・・・。」
「おどろかないの?」
「なんでおどろくんだよ。・・・あいたかったよ。本当に。」
「それより、何いまさら泣き言いってるの?」
「はは・・。そうだね。
でも変わろうって思ったんだ。
いま、最高の友達ができたんだ・・・やっとね。
ただ、同じ学校じゃないんだけどね。
まさかおれの趣味から友達ができるとは思わなかったよ。
その趣味はおれの人生を大きく変えてくれた。
ついに人生が変わるような出来事に出逢えたんだ。
だから、その報告に来たんだ。」
「よかったね。ほんとに・・・。」
「ああ・・・。お前こそもったいなかったな。
生きてれば・・・
生きてさえいれば、もっといいやつと出逢えたかもしれないのに。」
「そうかもね。・・・でも私は最高の人に出逢ってたわ。」
「そうか・・・。」
「あ・・・。そろそろいかなくちゃ。
まったく。私の最高の人は3年も会いに来てくれないんだから・・・。
それじゃね。」
「また会える?」
「うん。・・・☆◎年後にね。」
「☆◎年後か・・・。わかった。それまでお別れだ。」
「最後に・・・。」
「うん?」
あの時のような笑顔でこの質問をしてきた。
「あなたの夢は?」
「ああ・・・。今いる最高の友達とこれから出来るであろう最高の恋人と
心配してくれた家族と一緒に・・・
これから一生懸命生きる。」
「その願い、かなうわ。きっと。」


この話はフィクションです









小説こ〜な〜まで戻ります